3.Past and future

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 二学年への進級試験で素質ありと判定された僕は、パイロット育成に特化したクラスに振り分けられた。  できれば後方勤務に就いて、目立たず平穏に暮らしたい。そんな僕の意識が突然高まるはずもなく、実技や航空宇宙学以外の成績は相変わらず低調のままだった。  地上演習の訓練で再びレキシアと一緒になった時、僕に転機が訪れる。  視界の悪い大雨の日だった。分隊編成で山越えする際、仲間とはぐれ遭難しかけた。レキシアの活躍をやっかんだ上級生が工作して、僕たちふたりを孤立させたんだ。  手元にあるのは偽ルートのアナログマップだけ。コンパスもなく、引き返すこともままならない。どの道を進めばゴールできるのか、見当もつかなかった。 「バイタルが下がれば、さすがに救助がくる。ミハエルはどうしたい?」  生徒の体調と現在地のデータは、リストバンドからリアルタイムで本部に送られている。SOSを出してすぐ迎えに来てもらいたい。けれど、レキシアの考えは僕みたいに甘くなかった。 「やられっぱなしでギブアップは悔しいだろ。行けるところまで行きたいんだ。もちろんミハエルはここで降りてもいい」 「行きます一緒に」  置いて行かれても困るので即答した。    不安いっぱいの僕とは反対に、レキシアはずっと冷静だった。  夜を待とう。雨が上がれば、星が見える。進むべき方角がわかる、と。  そのとき思ったんだ。このひとは、世界がどんなふうに見えてるんだろう。  目の前に壁があったら僕は諦めてしまうけど、レキシアはものともせず乗り越えるに違いない。  そこからは、どんな景色が見えるのか。  このひとと一緒に上を目指したら、僕のモノクロの世界も鮮やかに彩られるだろうか。
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