9.Get down

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【レキシアSide】  捕虜交換の準備が整い、いよいよ出発が二日後に迫った。非公式のため作戦指令本部の軍港は使わず、王都から離れた第二軍港から出発する。  俺も紛れてラクリマに行けたらどんなにいいか。ラウルにこぼすと真顔で止められた。  家族会を立ち上げたベッカーは、数日前に捕虜交換希望者を集め小規模の交流会を開いた。  その影響で中止とされた捕虜交換が行われるのではと、オルグ作戦本部長の元に問い合わせや抗議が相次いだため、ミハエルは捕虜ではなく「特務中で不在」と再度通知された。  捕虜交換は実施にあらず、ゆえに騒ぐなと牽制の意味が込められているが、後手後手感が強く効果は期待薄だ。 「エヴァレット殿、急な呼び出しはご遠慮願いたいですな。私は出発に備えこれから第二軍港へ――」 「余計な真似はするなよ」  話の腰を折り直截(ちょくせつ)的に伝えると、ベッカーは不快そうに目を細めた。 「なんのことです」  微かに遠雷が聞こえる。空の半分はまだ青いが、じき降り出しそうだ。人影がまばらなスカイロビーの空中庭園に湿り気を帯びた風が吹き、植栽の木々を揺らす。 「捕虜交換の希望者リストをケルサス側に提出するのはやめろ。いまは相応しい時宜(タイミング)じゃない」 「……私の身辺を嗅ぎまわっていたのは、エヴァレット殿でしたか。その件なら、オルグ作戦本部長に止められました」 「で?」 「リストの提出は見送ります」 「本当だろうな」
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