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「疑い深い方ですね。バルツァー氏との会見で次への取っ掛かりをつけます。焦らずじっくりいきますよ」
オルグに釘を刺され改心したならいいが、いまいち信用ならない。
「失敗はありえないからな。必ずミハエルを連れ帰って来い」
抱えたタブレットを持ち直し、ベッカーが不満そうに俺を見やった。
「ご友人に肩入れしすぎるのもどうかと思いますがね」
「肩入れ?」
「私が捕虜だったら、貴殿はリルシュ殿と同じくらい私の身を案じてくれましたか」
なにを気色悪いこと言ってるんだ。ミハエルと貴様を一緒にするな。
「案じて欲しいなら他のやつに頼め」
ベッカーの質問の意味はわかっている。ミハエルが関わってなければ、これほどまで首を突っ込んだりしないだろうと言いたいのだ。つまりは放っておけと。
「干渉されたくなければ決められたことだけしていろ」
「リルシュ殿にかこつけて口出ししてくるのは、結局のところ、私に手柄を取られるのが気に入らないからでしょう」
「勘違いするな。今回失敗したら後がない。慎重になれと言ってるんだ」
「アストベルク元帥のご機嫌取りも大変ですな。野心家の貴殿がファルシーゼ嬢との結婚を踏み台に出世を狙ってるとの噂も、あたらずといえども――」
「下衆が! 曲解も大概にしろ。俺を貶める口実に閣下を引き合いに出すな!」
「これは、失礼。いずれにしてもご心配なく。私はエヴァレット殿より、年齢も経験も上です。万人が歓喜する結果を引っ提げ帰還いたしますよ」
敬礼したベッカーは庭園の小径をあわただしく駆け出し、俺の前から消えた。何を目指してるんだ、あの男は。一緒にいると頭痛がするのは俺だけか。
雷鳴が近づく。遠くの山並みに視線を移すと、美しく鮮烈な稲光が一筋、暗い空に走った。
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