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「あまり深く考えないようにしてるよ」
「それが賢明ですね」
僕はアニエスがクロゼットから選んでくれた薄手の長衣に着替えた。膝下まであるノーカラーのチュニックシャツに、下は七分丈のレギンス。これなら着付けなしでひとりで着られる。軽い生地で動きやすい。
「あのさ、アニエス」
赤い絨毯の上を並んで歩きながら、僕はお願い事を口にした。
「クレアの寝室を別にしてもらえるかな」
心の隅に引っかかっていたことだった。前を向いていたアニエスがちらと僕を見た。
「一緒ではご都合が悪いですか」
「クレアと関わらないほうがいいって言ったの、アニエスだよ?」
「ええ、確かに」
「ならどうして。矛盾してる」
「私は反対しましたよ。すべてバルツァー様の指示です」
そういうことか。ようやく腑に落ちた。命令ならアニエスも従うしかない。
「アニエスがクレアのことバルツァー殿に話したんじゃないの?」
「いいえ。私が報告しなくても城の内外で起きた出来事は、遅かれ早かれバルツァー様の耳に入ります」
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