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「棚ぼただなぁ、ミハエル」
「なんの話?」
見当がつかず、僕は訊き返した。
「叔父上からクレアを身請けしてもらっただろ」
棚ぼた……結果的にはカイの言う通り、これ以上ない幸運だった。
「バルツァー殿には感謝してるよ。早くメイドの仕事に慣れてくれればいいと思ってる」
「は? 置いてく気かよ」
カイが批難めいた声を上げ僕を見た。人ひとりの将来を左右する事柄なのに、簡単に言わないで欲しい。
「連れて行くつもりはないよ。クレアには家族がいるんだ」
「またか、いい子ぶりやがって。家族がいようがいまいが関係ねえだろ。欲しいなら奪え、後悔するぞ」
いい子ぶってないのに、カイの目にはそんな風に映るんだ。すごく心外だ。
「カイは後悔したことがあるの」
「オレのことはどうだっていいんだよ。そうか、奪いたいと思えるほどの愛じゃないわけだ。ならクレアはオレがもらっとく」
「や……」
「やめて? たいして好きじゃない女でも、他人に取られるのは嫌か。ワガママー。それでレガリアに置いていくとか言ってんだもんな。矛盾の塊め」
カイが容赦なく嫌味をぶつけてくる。そっとして欲しいのに、どうして放っておいてくれないんだろう。
敵国の僕が、中途半端な立場の僕が、自己満足のために関わったらだめなんだ。
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