9.Get down

27/27
前へ
/567ページ
次へ
「私はミハエル様が心配なのです」 「どうして?」 「例えば……エヴァレット殿と私が同じ病に苦しんでいたとします。一人分の特効薬があったら、ミハエル様はどちらに飲ませます?」 「半分こできないの?」 「できません」  反射的にレキシアの顔が浮かんだ。 「レキだよ」 「それを聞いて安心しました」 「薬が出来たら、アニエスにも飲んで貰うよ」 「無理です。待ってる間に私は死にます」  ふっとアニエスが笑いをこぼした。 「ちょっと待って。意地悪だよ、その答えは」 「何故ですか。どちらも救いたいだなんて、都合のいいことを考えてます? 違いますよね、あなたは軍人なのですから」  僕は言葉に詰まった。アニエスは僕を傷つけるために話してるんじゃない。でも何でだろう。紛れもない事実なのに、受け入れ難いのは。 「迷ったら、思い出してください。あなたの一番大切な人を。一番守りたい人のことを。情けや罪悪感は無用です。私も、殿下とミハエル様が同じ病に苦しんでいたら、殿下の命を優先します。それだけのことです」  レキシアとアニエスを同時に救うことはできない。どちらも助けたいとの迷いは、弱さを生む。だから、一番大切な人を守るために、片方は切り捨てなければならない。  残酷だけれど。今までの戦いでそうしてきたように、これからも――。
/567ページ

最初のコメントを投稿しよう!

234人が本棚に入れています
本棚に追加