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「私はミハエル様が心配なのです」
「どうして?」
「例えば……エヴァレット殿と私が同じ病に苦しんでいたとします。一人分の特効薬があったら、ミハエル様はどちらに飲ませます?」
「半分こできないの?」
「できません」
反射的にレキシアの顔が浮かんだ。
「レキだよ」
「それを聞いて安心しました」
「薬が出来たら、アニエスにも飲んで貰うよ」
「無理です。待ってる間に私は死にます」
ふっとアニエスが笑いをこぼした。
「ちょっと待って。意地悪だよ、その答えは」
「何故ですか。どちらも救いたいだなんて、都合のいいことを考えてます? 違いますよね、あなたは軍人なのですから」
僕は言葉に詰まった。アニエスは僕を傷つけるために話してるんじゃない。でも何でだろう。紛れもない事実なのに、受け入れ難いのは。
「迷ったら、思い出してください。あなたの一番大切な人を。一番守りたい人のことを。情けや罪悪感は無用です。私も、殿下とミハエル様が同じ病に苦しんでいたら、殿下の命を優先します。それだけのことです」
レキシアとアニエスを同時に救うことはできない。どちらも助けたいとの迷いは、弱さを生む。だから、一番大切な人を守るために、片方は切り捨てなければならない。
残酷だけれど。今までの戦いでそうしてきたように、これからも――。
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