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「最終候補者のなかにおまえの名前はなかった。それに配属は俺の承認が必要だろう」
「だからこうして承認をもらいに来たんでしょう」
「これから会議だ。アポを取って出直せ」
ルリジシャは俺の手からカップを取り上げ、凄みを利かせるように声を低めた。
「コーヒー飲む時間があるなら承認できるでしょ。わたしを採用しないって選択肢がある? 元カノを無下に扱うと痛い目見るわよ」
こいつは。なんの前触れもなく現れてごり押しか。エリックがニヤニヤしながら俺たちのやり取りを眺めている。俺は嘆息し立ち上がった。
「先に行く。ラウル、ルリジシャの予定を訊いて下がらせろ」
「ちょっと、待ちなさいよ、レキ」
ラウルの引きとめる声を振り切って、ルリジシャが俺の後を追ってくる。テラスのテーブルを抜け建物内に入ると、ハイヒールの音がさらに近づいた。
「待ってってば! そこまで無視する? レキ、レキ殿! もう、エヴァレット閣下!」
声を張り上げるルリジシャに周囲が振り返り、視線を浴びた俺も立ち止まらざるを得なくなる。
「閣下と呼ぶな」
「あら、大将にご昇進あそばしたんだもの、いいじゃない」
まったく敬う気が感じられないけどな。
「おまえはまず敬語から始めろ」
「前みたいにリジーって呼んで欲しいわ」
ああ言えばこう言う……。もう愛称で呼び合う仲じゃないだろうが。
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