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まだ僕に言い足りないことがあるのかと、あわてて心の準備をしたものの、放られたボールは想像したような重い内容じゃなかった。
「美味い酒があるんだ。飲ませてやるから着替えてオレの部屋へ来い」
「え、ちょっと待ってよ」
一方的に決められても困る。呼び止めたのにカイはさっさと出て行ってしまった。
「行かなきゃだめ?」
助けを求めると、アニエスがかすかに笑みを浮かべた。
「ご心配なさらず、私も同席します。十分後にお迎えに上がりますので、ご用意ください」
「……はい」
僕の返事を聞いたアニエスは、一礼して扉を閉めた。
強引な誘いにためらいはあった。でも僕を心配してわざわざ来てくれたのもわかる。いつものごとくカイは脱線気味だったけど。
それを差し引いても、温かい心づかいが嬉しい。ありがたいのと申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。
こんな僕にも、ふたりは優しい。不意に泣きそうになってこらえた。
レキシアやドレッドノートの距離が遠ざかるほど、僕は弱くなっていく。だけど。もう少しだけ、頑張ろう。もう少しだけ、頑張らなきゃ。
僕を支えてくれるひとたち、そして僕の帰りを待っていてくれる仲間のために。
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