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概要を聞き終え腹立たしさを覚えた。二十年以上前に起きた血で血を洗う争いは、時を経て再びミハエルを渦中に巻き込んだ。そして、否応なく俺たちをも。
「ミハエルの母君はレガリアへ帰星しなかったんだな」
「王位継承争いにミハエル殿を巻き込みたくなかったんでしょうね。贅沢な生活を送れなくとも、一般人のほうが幸せってこともあります」
それなのに、今さらだ。バルツァーは同じ轍を踏む気か。
「バルツァー殿は……ミハエル殿をレガリアの王に据えようとしているのですね」
ラウルの冷静なつぶやきは俺に重苦しい現実を突きつけた。
リセの代わりに、ミハエルを王に。バルツァーはゲームの駒として、ひとの人生を意のままに操ろうとしている。
王位継承権第一位の王子だとしても。ミハエルが承諾するとは思えないが、バルツァーに強制されたらどうなる? レガリア残留を余儀なくされれば、俺とミハエルは敵と味方に分かれてしまう。
王位を継ぐなんてあり得ないよな? ミハエル、おまえの声が聴きたい。おまえの敵はケルサスであって、プライマリじゃない。
ラクリマで味方を砲撃したのは、やむにやまれぬ事情があったからだろう? これ以上おまえを疑いたくないんだ。隠さず真実を聞かせてくれ。
「レキシア殿。二度目の捕虜交換が絶望的となれば、こちら側ができるのは、あきらめるか、救出作戦に打って出るかの二択ですよ。どうします?」
シンがコーヒーカップを片手に事もなげに訊ねた。
趨勢が変わる。大きく流れが変わろうとしている。
俺もミハエルも、後戻りできない岐路に立たされていた。
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