3.Past and future

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 救急隊員に付き添って先生が席を外したあと、僕はレキシアとふたり医務室に残された。 「ミハエル、俺は経緯を教官に報告しなきゃならない。ある程度……大まかに」  レキシアには珍しく歯切れの悪い言い方だった。 「どうぞ、してください」 「フィーネと同じ孤児院だったのか?」 「いいえ……孤児院に入る前、僕とフィーネはある店にいて、そこで……」  フィーネは仕事の内容は明かさなかった。でも以前僕が話した内容と、今日の出来事をあわせれば、褒められた仕事じゃないことくらいわかるだろう。いずれバレるくらいなら、自分から告白したほうがいい。 「その店がどんなところか、先輩なら想像つきますよね。必要なら、報告してかまいません」    過去は知られたくない。でも黙っているのはレキシアをだますようで嫌だった。なぜレキシアに誠実でいたかったのかはわからない。 「悪い、ちょっと整理させてくれ」 「すみません、変なことに巻き込んで」  レキシアが困惑している。誰だって顔見知りの下級生が低俗な店で働いていたと知ったら心穏やかじゃないだろう。 「俺はおまえが不利になる報告はしない」 「いいんです。気を遣わないでください」  僕は愚かにも少しずつ築き上げてきた足場を自ら壊した。   「もう行きます」  これ以上、自分に幻滅するレキシアを見たくなかった。  たまらず僕は駆け出した。逃げ出したかった。レキシアから、自分から、いま僕を取り巻くすべてから。  ひと息に階段を駆け下りた。僕の感情はぐちゃぐちゃだった。  退学かもしれない。  レキシアと先生が僕の過去を教官に報告したら、きっと――。
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