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「カイ、遅いよ」
三十分の遅刻だ。僕は読書用のタブレットを膝の上に置いた。遅れたことを気にもせず、カイが「なにも起きなかったか」と訊ねてきた。
「起きるって、なにが」
出し抜けに問われ、意味がわからず訊き返した。カイは僕の隣に腰を下ろし脚を組んだ。
「その調子じゃ、なんもなかったんだな」
「だからなにがってば」
「リセの嫌がらせだよ」
まさか、僕がひとりでいたら狙いやすいから?
「リセの動きを探るために、僕をここへ呼んだの」
「そうとも言う」
「信じられない! 勝手に実験しないでよ」
「いいじゃん、無事だったし」
カイは右手を伸ばし、人差し指で僕の顎を持ち上げ意味深に笑った。僕はその手を払いのける。
「なにかあってからじゃ遅いんだよ」
「優秀な護衛がついてんだから、ヤバそうなときは対処すんだろ」
「リスクがあるならひとりで外に出なかったよ」
「怒んなって。それよりこれ。見てみろ」
僕の怒りをスルーして、カイが手のひら大のモバイルを取り出した。
「リセといる男、知ってるか」
のぞき込んだ画像は、リセが大柄な男性と一緒に映っている写真だった。誰かわかった途端、嫌な気持ちが胸に広がる。
「ネスラー元帥……」
僕をケルサスに引き渡した張本人だ。どうして、リセと一緒にいるんだろう。どういう繋がり……?
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