3.Past and future

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 フィーネが学校に訪ねてきたとき、嬉しいという気持ち以上に恐ろしさを感じた。レキシアに僕の過去を知られてしまう。教官たちにまでバレたら、どんな目で見られるか。  最悪、軍人の資質なしと放校になるかもしれない。僕はまた孤児院に戻される。  どうしていまさら会いに来るんだって、思った。フィーネは純粋な気持ちで、命を削って会いに来てくれたのに。  過去がまた目の前に現れて、僕を闇に突き落とす。  レキシアには知られたくなかった。綺麗な部分だけを、見ていて欲しかった。 「もうかまわないでください。僕と先輩は違うんです」 「同じだよ」 「違います。同じじゃありません! 僕は先輩が思ってるよりもっと……もっと汚れてて、愚かで、醜い……本当の僕を知ったら、先輩は――」  離れていく。嫌だ。仲良くならないと言いながら、心では逆を望んでる。受け入れてもらいたいと、孤独な心がうずく。わかって欲しい。絶対無理なのに。 「メアリ先生にフィーネが亡くなったと聞いて、悲しかったけど涙は出なかった。ただ、ほっとした。僕の存在を暴くひとがいなくなったって。どれだけ自分が可愛いんだって、自分自身が嫌になった。つらいときも苦しいときも励ましてくれた、彼女がいなければ僕は死んでいたかもしれないのに、わずかでも疎ましく思うなんて……」  わたしがミハエルのママになるわ。そしたら寂しくないでしょ。  わたしたちは友達で、姉弟で、親子なのよ。素敵ね。  風に乗って舞い込んだ雪が、僕とレキシアの制服を濡らす。  気づいたら泣いていた。  ぱたぱたと涙がこぼれ落ち、僕の心は不安定に揺れ、収拾がつかなくなっていた。心細くて体が震えた。ふたりの呼吸の音だけが耳に響く。
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