3.Past and future

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「……もしおまえが愚かなら、」  静かで穏やかな声だった。レキシアは制服の襟からスカーフを外し、僕の涙を拭いた。 「もしおまえが汚くて醜いなら、俺だってそうだよ。アウラで爆撃を受けた時、隣に友人がいた。わずかの差で彼の体は吹き飛び、俺は助かった。怖くて、生死も確認せず逃げた」  最低だろ、とレキシアは自嘲し壁に背を預けた。 「だって、そうしなくちゃ先輩も死んでしまうから」 「生きのびるための正しい選択だった……?」 「そうです。愚かでも、汚くも、醜くくもない」  ほんの刹那、僕たちの間に沈黙が流れた。  粉雪は中庭の芝生に音もなく降り積もっていく。 「店のことはメアリ先生や教官に報告してない。するつもりもない」  僕は、はっとして顔を上げた。
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