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緊張して変な動悸がしてきた。早く安全な場所でひとりになりたい。
「リルシュ殿は大事にされているんですね」
前を歩いていたアニエスが僕の横に並んだ。レキシアと交わしていた格式ばった話し方とは違い、やわらかな口調だった。
「私の主人とはタイプが異なります。それに、エヴァレット殿は怖い方だ。鋭い圧を感じました。目で射殺されるかと……」
距離を縮めようとしてくれているんだ。敵意は感じず、少しだけほっとする。
「主人とは、バルツァー殿のことですか」
「間接的にはそうです。私は通常レガリアのアストラ王宮にいらっしゃる王子、カイ様に仕えております。今回私が会戦に同行したのは、バルツァー様に事務関連の許可をいただくためで、普段艦には乗っていません」
「事務処理のためだけに参戦されたのですか」
「そのほうが効率が良かったもので」
命をなくす危険性だってあるのに、と言葉が出かかったけれど、プライマリとは違う仕事の流儀があるのだろうし、下手に口を出したら失礼かと思いとどまった。
僕たちは格納庫から連邦軍の小型艇に乗り込んだ。セスナ型のコンパクト仕様で、個々の座席は革張りのリクライニング式だった。
高官専用の艇らしい。席に着くと間もなく機体が浮き上がり、宇宙空間へ飛び立った。
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