第一話 女と男

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第一話 女と男

「おいおい、マジで行くのかよ?」  草むらに隠れて、男が言った。 「当たり前です。こんなチャンス、滅多にありません」  答えたのは女であった。  男と同じく、こちらも身を潜めている。  鬱蒼とした森での出来事であった。  巨木が立ち並び、飛び出した根っこが一面を覆っていた。  湿度もやたらと高く、地面は緑に苔生している。  昼間にも関わらず、周囲はぼんやりと仄暗い。  ちなみに影に隠れて、男女の顔はよく見えなかった。 「仕掛けるつもりか?」 「まさか」  男が聞いて、女が首を横に振る。  そんな2人の装いは、揃って革の鎧である。  男は腰に剣を吊っていて、女は(クロスボウ)を構えている。 「こんな玩具(おもちゃ)、クソの役にも立ちません」  女が言って、(クロスボウ)を下ろす。 「そ、そうだな」  男がホッと胸を撫で下ろす。 「……うん? さっき〝チャンス〟がどうとか言わなかったか?」  少し考えて、違和感を抱く男。 「可能な限り近付いてみましょう。アレの雄姿を、是非とも脳裏に焼き付けておきたい」 「お、お前な――」  女の台詞に、男が抗議しかけた時である。 「静かに!」  片手を上げて、女が会話を止めた。  その直後、ズシンと地響きが鳴った。   メキメキと木を倒して現れたのは、巨大な生物である。  巨大生物の頭には、首筋を守るよう2本の角が生えていた。  大きな口にはバナナのような牙が並んでいて、どんな物でも噛み砕きそうであった。  長い尻尾と、2本足で歩く緑の生物は、正しく(ドラゴン)であった。 「無翼の歩行種――流星竜(リントブルム)ですか。最強の魔物の一つです。全長15メートルはありますね」  ブツブツと分析する女である。  女の言うように、(ドラゴン)もとい流星竜(リントブルム)に翼は無い。その代わりに、カギ爪のついた手が2本生えている。 「おおおお、おい」  声を震わせながら、男が女の服をクイクイと引っ張った。  嬉しそうな女に対して、男の腰は引けている。  それもそのはず、流星竜(リントブルム)の位置は、2人からおよそ20メートルである。  対象の大きさを考えれば、至近距離と言えた。 「に、逃げ――」  男が言った次の瞬間である。  流星竜(リントブルム)が、二人をキッと見据えた。
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