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「まだ陽は高いですが、今日はこの辺で切り上げましょう」
「何で? 俺はまだまだいけるぞ?」
少女の申し出に、男が首を傾げる。
「ハァ……。貴方のクソ体力は認めますが――」
呆れつつ少女が続ける。
「もう少し、知恵を付けた方がいい」
「な、何だよ?」
少女の言い草に、男が閉口する。
「流星竜がいるのですよ。貴方に仕留められるヘボい魔物なんて、みんな逃げ去っています」
「あっ……。なるほどな」
理路整然とした少女に、男が納得した。
「よっしゃ! それじゃあ、今日のところは帰るか!」
男が言って、道を歩き出した時である。
「動かないで!」
少女が叫んで、弩を構えた。
「な、何だ?」
男が立ち止まった瞬間である。
太矢がビュンと唸りを上げて、男の首を掠めていった。
◇◇◇◇
「お、お前! いきなり何すんだ!」
自分の首元を押さえつつ、男が少女に詰め寄った。
「落ち着きなさい」
男に襟首を掴まれながら、少女が穏やかに言った。
「一体――」
男が言いかけた時、太矢が飛んで行った先で、何かが倒れる音がした。
「何だ?」
男が後ろを振り返る。
男の視線の先、道の端にある茂みの向こうで、大きな生物が倒れていた。
人間に似た毛むくじゃらの生物は、眉間に太矢を受けて白目を剥いている。
「あ、あれは?」
「魔猿ですね」
男の問いに、少女がサラッと答えた。
…――…――…――…
魔猿とは、その名の通り猿の形をした魔物である。
人間より大きめの体格で、四足歩行をするこの魔物は典型的害獣であった。
悪知恵が働く上、手先も器用なので、人畜に害をなす筆頭である。
家畜や農作物はもちろんのこと、時には人間そのものを喰い殺す邪悪な存在である。
その上に、魔猿を仕留めたとしても、利用方法は特にない。
肉は硬くて不味く、皮はどのように加工しても強い臭いを放ってしまう。
これらの事実が、人々の魔猿サスカッチ嫌いに拍車をかけていた。
もっとも、常に賞金がかかっているので、ハンターにとっては金の成る木と言えた。
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