行きて帰らぬ、あのリフト

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そのうち、辺りの景色のように頭の中がぼんやりしてきた。 体に、温かく重い泥でも流れ込んで来ているようだ。手も足も少しの意思では持ち上がらない。 ひたひたと、幸福感だけが穏やかな波となって胸の中に打ち寄せる。 なんという心地だろう! 重い体をシートに預け、光に温まった霧をブランケットにして、ただ座っていればいい。 それでいずれ、何も考えなくて良くなる。 何も、分からなくなる。 その時が訪れるまで、この心地よさに満たされて待っているだけでいい――。 とにかく私は幸せだった。
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