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――先生と俺は医者と患者という関係を超えた。だからもっと恋人らしい話し方をしてほしい。甘えたり、時々は可愛い感じも出してほしい。
伊武にそう言われて、また一つ悩みが増えた。
確かに今は、ですます調で話すことが多い。口調が他人行儀に聞こえると言われてしまえばそうかもしれなかった。
惣太は元々口が悪い。もちろん、上級医や患者に対しては常識的な話し方をしているが、それ以外の人に対してはフランクな言葉遣いだ。あまり汚い言葉遣いをすると伊武に嫌われるかもしれない。
一体、どうすればいいのか。
恋人ができたというだけで、日々、悩みが増えていく。
惣太はルールやマニュアルがないことをこなすのがあまり得意ではなかった。
「あー、ホントにどうしたらいいんだー。誰か教えてくれ……」
ぼんやりと溜息をつく。便器に座ったまま、祈りのポーズで自分の両膝に肘を着いた。もちろんズボンとパンツは足首で絡まった状態だ。
「神様~」
個室のトイレで神に祈ったのは一昨年、ノロウイルスにやられて以来だった。
「あー、やっぱり神様なんていないよな。自分でなんとかするしかないか……」
自分の吐いた溜息がピンク色をしていることも、取り巻く空気がキラキラと輝いていることも、惣太自身は全く気づいていなかった。
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