【1】恋煩う

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 午前の外来を終えた昼休み、惣太は同僚の医師である林田を外来棟の最上階にあるレストラン「はくよう」に呼び出した。お互いにうどんを啜りながら会話をする。今日の林田はカレーうどんで惣太はキツネうどんだ。 「一つ、聞きたいことがあるんだが」 「なんだよ」 「おまえは恋人のことをなんて呼んでる?」 「恋人? いねぇよ、そんなもん。……ったく、ちょいちょい、リア充の優越感を挟んでくんなよ、うぜぇな。ここは病院の中だってことを忘れんなよ」 「過去でもいいぞ」 「はあ? 全く、面倒だな。おまえのその、恋愛初心者特有の浮かれ具合、イラッとするわ」 「やっぱり、名前で呼ぶべきかな……」 「聞いてんのか、コラ」 「林田ならなんて呼ばれたい? おまえの名前は(まなぶ)か。まなぶくん? まなぶさん? まなちゃん? ガクくん?」 「うるせぇよ」 「やっぱり、誰にも呼ばれない名前で呼ばれたいか? まなまなとか」 「いい加減にしないと、キツネうどんのキツネ部分を根こそぎ奪うぞ」 「いいぞ、欲しいならやるよ、ほら」  惣太は箸で油揚げをぺろんとめくった。
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