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世界は真白にはならない
少女と男は、暗く重い雲に覆われた空の下を二人並んで行く。歩くたび、地面を埋める枯れ葉を踏みしめ、枯れ葉はときどき、くしゃりと潰れる音を立てる。
二人で旅に出て、早二年。道を挟む木々から葉はほぼすべて落ちつつあって、空気は日に日に冷たくなる。また、冬が来るのだ。
冷たい空気を浴び続けた鼻がすっかり冷えてしまって、少女は耐えかねて自分の鼻を摘まむ。それを見た男は、おかしそうに笑った。
「何をしてるんだい?」
「寒いんです」
「鼻が?」
「鼻が! もうすっかり冷えちゃって。乙女的に異性の前で鼻水が出るのは勘弁なんですよ」
「鼻水垂らしているよりもっとひどいもの、たくさん見てきたけどねえ。それこそ君が小さなときは撫子がおむつを替えているのも見て……」
「うわああああああ! お母さんったらなんてことしてくれてるのぉ!?」
冷え切っていた体が急激に温まっていく。背中から嫌な汗が噴き出してきた。
「真白はいつも楽しそうだね」
「全然! まーったく! 楽しくないです!」
「ああ、そうなの? 人の心は、よくわからないね」
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