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目深に被った布から、男は微笑を零した。その瞬間、八重歯と呼ぶにはあまりにも鋭すぎる歯が、口からちらりと覗いた。
――これは、人ではない。額には角を持ち、口には鋭い牙を生やし、そして、不思議な力を持つ、人ならざる者だ。
真白は訳あって、彼と旅をしている。正確には、真白が彼を連れ出した。最初は旅というものに戸惑っていた様子だったが、今ではすっかり旅慣れたようだ。旅を楽しむ余裕も出てきたらしく、笑う回数はどんどん増えていく。
旅に出てよかったと、真白は思う。たとえ旅の目的があんなものでも、彼の安らぎきった表情は、旅先でなくては見られなかっただろうから。
「……ねえ、真白」
ふと、彼の足が止まった。
(ああ、またこの話だ)
毎日、毎日、彼はこれを繰り返す。おそらく、一つの確認行為だ。
「いつになったら、私が死ぬ術は見つかるんだろうね」
悲しげに、葉が落ちた木々の方を見やる。
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