世界は真白にはならない

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 物心つく前から、それは、社の奥の薄暗い檻の中にいた。世話役の母に連れられて、真白は何度も彼のもとに通った。  母が命じられているのは、最低限の世話、つまり食事を運ぶくらいだった。彼が食べるものはとても変わっていて、赤く染まった紅葉の葉だけを食す。すると、真白の村には秋が訪れ続ける。……秋が終わっても、また新たな秋が来るのだ。作物の状態は秋の始まりに戻り、けれど人々が積み重ねていく時間は変わらない。それもまた、彼の力の一つである。ゆえに村人は彼を、秋様と呼んでいた。  母は秋様と積極的に会話をするようにしていて、その時間をなるべく長く取るようにしていた。真白のおむつを彼の前で替えたのだって、席を外す時間がもったいないと思ったからだろう。母がそういう行動を取ろうと考えてしまうくらいには、彼は、孤独だった。  真白が十三歳になった年、母が死んだ。病だった。秋様の世話役は、母の世話を見て育った真白が引き継ぐこととなった。 「お久しぶりです」  十日ぶりに、彼と会った。ほんの十日の空白なのに、長い間会っていなかったようだ。 「今日から秋様の世話役となりました。よろしくお願いします」 「真白? ……撫子は?」     
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