世界は真白にはならない

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 ……真白は知っている。村人たちが秋様に対して失礼な母を世話役から降ろさなかったのは、彼らが秋様を恐ろしい存在だと信じているから。忌み嫌っているとすら言えるほど、村人たちは秋様と距離を取りたがる。だから全部、母に任せてきたのに、いざ病に倒れたら、そんな風に言うのだ。  それなのに、秋様は、人ならざるはずのそれは、誰よりも人らしく、涙を零した。 「秋様」  檻の格子の向こう側にいる彼に呼びかける。涙を恥じらうという感覚はないようで、彼は涙を垂らしながらこちらを見た。 (お母さん、怒るかな)  母は、この村を愛していた。だから、悪く言われても、「大丈夫」と笑って、気丈に振る舞っていた。  これから真白がしようとしていることは、そんな母への裏切りだ。だが、母がどんなに大丈夫でも、母がそう言われ続けて平気な真白ではなかった。おまけに、こんなに人らしく泣く人まで化け物扱いして、檻の中に閉じ込め続けて、そうして彼は、悲しみ続ける。そんなのは嫌だと、真白は思う。 「私と一緒に、この村を出ましょう」 「え……?」 「こんな小さな村にいても、秋様は、ずっと……ここに閉じ込められたままです。でも外なら、自由があります」 「でも、村人たちが困るんじゃないの?」 「いいんです、困っても。だって今までずっと秋様に頼りきりだったんですよ?」 (その上、秋様がこうやって泣く人だっていうことも知らない人たちなんですよ……)     
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