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「ううん、いいよ。……私はね、雪が好きなんだ。長く見ていなかったせいか、あるとき、無性に恋しくなってね、それで、撫子から子供の名前を相談された折に、雪の色……真白を提案した。そうしたら撫子はとても気に入ってくれて、君は真白になったんだよ。……その真白と、こうして二人で歩いて、雪を見ているなんて、不思議だね」
「……はい、不思議ですね」
二人、笑い合って空を見上げる。空から落ちてくる白は、徐々に増えていく。
「このままじゃきっと積もるね。先を急ごうか」
「ですね。もう少し行けば、宿場町があるって地図に書いてありました」
「そうか、じゃあ、行こう」
「はい」
歩調を少し速める。こうして早足で進んでいると、真白はときどき、無性に胸が苦しくなる。
(先を急いで、そうして、この人が死ぬ手段が見つかってしまったら、私は、どうなるんだろう)
そう思うたび、視界全部が真っ暗になる。
彼は猪突猛進に村を飛び出すと決めた真白に、目的をくれた。だが、その目的が果たされたとき、真白は世界にたった一人になる。その世界では、雪を見て、綺麗だなんて笑い合える人はいなくなる。
(それが、とても怖いんです)
とてもじゃないが、言えない。約束に頷いてしまった過去が、真白の全部を縛り続ける。
「真白?」
気づけば、真白の足取りは少し遅くなってしまっていた。開きつつあった距離を小走りで詰めて、真っ暗な感情をひた隠して作り笑いを浮かべる。
「ごめんなさい、やっぱり寒くて!」
「大丈夫?」
「はい! 急ぎましょう!」
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