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「その、万年問題児といつも一緒にいるマリエナに、あと一歩のところでおよばない、万年次席のロズウィ君。あたし達に嫌味を言うために、わざわざ待ってたって言うの? あんたも案外、ヒマなのね」
「そんな訳ないだろ!」
髪と同じくらい顔を赤くして、ロズウィが怒鳴った。
「僕は、院長先生にお目にかかろうと──」
その一言にマリエナが、ああ、と納得した。
「そっか。ロズウィの院長先生待ちだ。でも、毎日毎日、良く続くわねぇ」
エリオドーナ魔導院長は院生の憧れの的だが、その中でも、ロズウィのエリオドーナへの傾倒っぷりというのは有名だった。毎日のように、エリオドーナの執務室がある東の塔周辺をうろついて、彼女に出会える機会をうかがっているのだ。
「なぁんだ。ロズウィの定期訪問か。それじゃ今度、院長先生にお会いしたら伝えといてあげるわ。ロズウィ・ドゥガルが先生にお会いしたくて、塔の辺りを徘徊してますって。あ、それよりも、何か失敗すればいいんじゃないの? あたしみたいに」
「ばっ、馬鹿野郎! そんな事、でき──」
ロズウィが言い返そうとした言葉を、アスリールの叫びが遮った。
「あーー! いっけなぁーい! あたし、厨房の買出しに行かなくっちゃ。また後でね、マリエナ」
飛び上がって走り出したアスリールに、マリエナも「後でねー」と手を振って見送った。走り去るアスリールの姿に、ロズウィがボンヤリと呟いた。
「なんなんだ、あいつ……」
魔導院の各階を走り抜け、アスリールは地下にある厨房へと急いだ。
「おばちゃん、ごめん! 遅くなっちゃった!」
厨房へ飛び込むと、太った中年の女性が手を止めた。
「おや、アスちゃん。何、買出し、手伝ってくれるのかい?」
「うん。一週間の罰当番なんだけどね」
舌を出して笑ったアスリールに、女性が鋭く突っ込んだ。
「また、豪快にやらかしたそうじゃないか。トムザがこぼしてたよ、片づけが大変だったって」
「いっ──。もう、おばちゃんの耳にも入ってんのか。参ったなぁ。トムザ、怒ってた?」
頭をかきながら、上目使いに女性を見上げるアスリールに、彼女はおおらかに笑って見せた。
「あっはは! 気におしでないよ。このオルドール魔導院で働いている人間に、今さらアスちゃんに怒る奴なんて、一人だっていやしないわよ。そいつは、このナディアおばさんが保証するよ」
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