不思議な関係

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 ヒューゴの操る棹に合わせて、繋がれたボートはスピードを上げて行く。目指すのはハバスティアの港。様々な店の立ち並ぶ市場に面した、小型の船のための船着場だ。慣れた手付きで、ボートを決められた場所に誘導していく。コツンッという柔らかな振動が、目的地へ着いた事を教えている。 「ほれ、行って来い。急いでな」  ボートから飛び降りたアスリールは、波止場に停めてある荷車を牽 《ひ》いて来た。ロバの繋がれたこの荷車は、波止場を利用する者なら誰でも自由に市場内で使う事が出来るのだ。  勢い良く御者台に腰を降ろし、ナディアが隣に座るのを待って手綱を振るった。市場を貫く大通りの喧騒の只中に乗り込むと、あちこちの店から声がかかる。 「よう、アスリール。また罰当番かい? いっその事、魔導師になるのを諦めて、魔導院の厨房で雇ってもらった方がいいんじゃねえのか?」  顔馴染みの魚屋が、ロバの手綱を握るアスリールに向かって悪態を投げかけてくる。 「オルゾ、馬鹿をお言いでないよ! そんな事言ってると、魔導院に魚を卸せなくなっちまうよ」  ナディアが荷車から降りると、勢いのままに魚屋オルゾの後頭部を張り飛ばして歩いて行く。カゴを抱えて後ろからついてくるアスリールに視線をやれば、元気なくうつむいている。 「ほれ、あんたが余計な事言うから──」  それを見て、オルゾも困った表情で頭をかいた。 「悪かったよ、アスリール。お前が魔導師になりたがっているのは、俺達が一番良く知ってんだもんなあ」  それでもアスリールは、顔をあげようとしない。 「なあ、おいアスリール。悪かったってばよ。機嫌直してくれよなあ。……参ったなあ。よしっ、判った! 三割まけてやるよ! だから……」  オルゾが言いかけると、うつむいていた彼女の頭が弾かれたように上がった。 「おばちゃん、聞いた? 三割おまけだって!」  嬉しそうに告げるアスリールの顔に、影などこれっぽっちも見当たらない。ナディアに向かってニカッと笑う彼女を見て、オルゾは大きく息を吐いて目を覆った。 「ああ、やられたよ──」  アスリールはうめくオルゾを振り返り、意地の悪い笑いを浮かべた。 「でも、まけてくれるんだよね?」 「おお、約束は約束だ。三割まけで、持って行け」 「やったぁーーーー!」
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