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オルドール魔導院という所
東の海に面したハバスティアの街は、さほど大きくはない、風光明媚な場所である。これといった産業もなく、大きな港がある訳でもない。それなのにこの街が活気付いている最大の理由は、東の海に浮かぶ堅牢な建物にあった。
強固な城壁に囲まれた、オルドール魔導院。世界中に、高名な魔導師を輩出してきた学院だ。北のドライアス山地にあるシュルスティ魔導学校と並び称せられる名門だ。
世の中に魔導師は自称から超一流まで様々だが、「アルカナ」の称号を持つトップクラスの者は少ない。より強い魔力を持つ魔導師はほとんどが宮廷に召し抱えられ、その力の特性に合わせて二十二の位階を与えられる。たとえ宮廷魔導師の座を退いたり、宮廷に召される事がなかったとしても、アルカナの称号を剥奪される事はない。尊敬と畏怖を持って人々に迎えられるのだ。
そのようなアルカナを含む、優秀な魔導師を数多く育て上げたオルドール魔導院には全国各地から、前途有望な若者達が集まってくる。院の学生が使う学用品や日用品、消費される食料品などを扱った店も、それに合わせて増えていった。こうして、ハバスティアの街は出来上がって行ったのだ。
「海の城」と呼ばれ、いつもは静かなオルドール魔導院が、このところ妙に騒がしい。異様な緊張感さえ漂っている。それは、半年後に迫った、卒業試験によるものだろう。
院生達は、魔導院で五年間学んだ後、年に一度の卒業試験に臨むのだ。これにより、院生達は自分の力の属性に見合ったシンボルを院から授与される。
たとえば、水の属性を強く持つ者なら、水を表す四獣である鷲のリングを。土の属性を強く持つ者であれば、土の四獣である牡牛を刻んだメダリオンを、といった具合だ。
そのために、毎年この時期だけはさすがの魔導院も落ち着かない。原因は試験内容にあった。自分がもっとも得意とする術、基本的な学術的知識に関する問答、そして自分で編み出した新しい魔術の三点が試験の柱となる。
ここで問題なのは最後の課題である。五年間に学んできた事をベースにして独自の術を編み出す訳なのだが、力の加減が判らなかったり、必要な薬剤の調合を間違えたりと、様々な騒ぎの元凶になっているのだ。
その最たるものが──。
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