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「アスリール!」
院長室から続く長い階段を降りてきたアスリールを、廊下で待っていた院生が呼び止めた。振り向いた彼女に、一人の少女が駆け寄ってきた。
「マリエナ! 待っててくれたの?」
肩の辺りで切りそろえた黒髪を揺らして、マリエナと呼ばれた少女は立ち止まった。一房だけ長く伸ばした尻尾のような三つ編みが、一拍遅れて跳ねる。
「大丈夫だった? 院長先生は、何ておっしゃったの?」
心配そうに眉をひそめて、マリエナはアスリールに問いかけた。
「うん、大丈夫。今日から一週間、厨房の買出しを手伝いなさいって。また教頭に嫌味言われちゃったけど、院長先生が助けてくれたし」
「そう、良かったわ」
マリエナがホッとムネをなでおろした時、後ろから嫌な声が聞こえてきた。
「これはこれは。オルドールきっての秀才、マリエナ・クロードと、魔導院一の問題児、アスリール・ベリーフィールドの取り合わせとは。いつ見ても、不思議でなりませんよ」
振り返ると、そこに立っていたのは赤い髪を一本に束ね、緑の瞳で意地悪そうに二人を見ている少年。
「何よ、ロズウィ・ドゥガル。あたしとマリエナが一緒にいて、何かおかしい事がある訳?」
赤毛の少年ロズウィは、口許に皮肉を含んだ笑みを浮かべたが、その目は笑ってはいない。
「だってそうだろ? 魔導院始まって以来、五年間首席を守り続ける天才と、これもまた魔導院始まって以来、初等魔導しか使えない万年問題児。一緒にいる方がおかしいだろ」
フンッと鼻から息を吐き出すと、腰に両手をあててアスリールも言い放った。
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