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『まだ落ちないで。私じゃ貴方を抱えられないから』
「えー。困っちゃうな」
『自分で言ったじゃない。できる男なんでしょう?』
「そうだ。俺はおだてに弱いんだ。もっと褒めてくれてもいいんだぜ……」
『シリルが貴方を待ってる。もうすぐ会える』
「そしたら。ハグしたい」
(意識が飛びそうだ……)
新名は得意の軽い口調で返事をした。
根っから明朗快活でどこかひょうきんな男、新名信夫。
喋らなければ男前に見えなくもないだろう。東洋人だが彫りの深い顔立ちは髭を蓄えれば欧米人と見紛うほどだ。
背は然して高いわけではないが。体躯は精強さを備え、一見するとスポーツマンか或いは警官、軍人に見られる。
本人は至って普通に、あたかも人間的に振る舞うのだ。例えどんなに血に飢えていてもピートのように人を襲わない。
誰に押し付けられたものでもない。
飢えへの葛藤は人も怪物もきっと普遍にあるもの。
それを隠し生きる術を身に付けただけの “人に在らざる者”。
新名信夫というヴァンパイヤはヴァンパイヤを踏みにじりながら。今日もまだのうのうと生き永らえている。
人もヴァンパイヤも『らしく在る』ために必要な理屈なんてきっと細やかな願いなのかもしれなかった。
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