第2章 夢

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第2章 夢

夢を見た。 そこはふたりで暮らした部屋の風呂場で、優里は浴槽に浸かっていた。身体のあちこちに古傷があった。 「大したもんじゃない」 笑って言うけれど、それは煙草を押し当てられた跡だったり、刃物でえぐり取られた跡だったり、熱湯をかけられたような火傷の爛れだったりがびっしりと刻まれていて、視線を向けるのさえ憚られた。 父親から虐待を受けていた優里の身体は傷だらけだ。 シャワーを止めて、私も浴槽に浸かった。 恐る恐る、鎖骨の火傷跡に触れてみる。 「痛かった?」 尋ねると、優里は困ったように笑った。 「痛かったよね。優里の痛み、半分貰えたらいいのに。傷つけられた時の痛み、全部」 そう言うと、 「やめとけ。イテェぞ。俺は大丈夫だ。強いからな」 にやり、いつもの不敵な笑みを浮かべると、優里は言った。 そのままシーンは移って、ベッドの中。 ザアザアとノイズ混じりの画像。 唇が動いた。 「オマエの方が、ずっと痛かったろうが」 「俺だって、変われるもんなら」 「オマエを犯し続けた父親、ぶっ殺すのに」 黒と白。 雨のようにノイズ混じりで聞き取りにくいけれど、そんな風に言ってるようだった。 甘くも切なくもあるその言葉を、身を委ねたまま聞いていた。それは心地よいオルゴールの音色のようだ。 その澄んだ音に交じって、父親の下卑た言葉が聞こえる。 《オマエは淫乱だから》 《このくらいじゃあ満足しないんだろう》 《せいぜい貶めてやるよ》 《そういうのが、好きなんだろう》 堪らなくなって耳を塞いだ。 遠くで優里が慌てて謝る声が聞こえた。 傷を抱えたもの同士、傷を舐め合いながら、私たちはいけるよね?一緒に歩いて、いけるよね? 優里は笑っていた。力強いのに曖昧な印象で。 どうして? そんな、夢を見た。
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