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第3章 真実
「それで、その後どうですか?」
カウンセリングの杉田先生が尋ねた。
わたしは何も答えられない。
どうですか?
どうだというのだ。
あの後、何度薬を飲んでも私は死ねなかった。
数日後、ベッドメイクのタイミングで、優里の死体が見つかってしまった。
すぐに通報されて、警察がやってきた。
心中しようと思った。
そう告げたら、私の飲み続けていたカプセルはただのビタミン剤だと教えられた。
優里からは別の、殺傷性の高い薬物が検出された。
「これは俺がネットで手に入れた毒薬だ」
「一緒に死のう」
そう言った優里のあの言葉はなんだったのか。
つまり、優里は最初から自分だけ死ぬつもりだったのだ。
そしてもうひとつ、警察に告げられて、驚いたことがある。
それは私の父親が、絞殺されたということ。犯人は恐らく優里であること。父親の死んだ日にちがこのホテルに来た当日だったということだ。
今から丁度半年前。
それは本当に突然のことだった。
あの時。
あの朝。
父親が私の居場所を突き止めて、再び私を犯した。
私は優里に死にたいと縋った。
泣いて、半狂乱になって、死にたい、と繰り返した。
優里は私に水を一杯飲ませると、
「死のう」
一言、そう言った。
それから半年かけて、私たちは死ぬ準備をして暮らした。
そうして準備が出来た日に、「最後の仕事を片付けてくる」優里はそういって部屋を出て行った。
私だけ先にホテルに向かったのだが、思えばその時、優里は私の父親を殺したのだろう。
「先生」
私は声を出していた。
「私は騙されたんです。あの優しい男に。狡い男に。最愛の人に死なれたら、人は一体どうすればいいんですか?」
先生は一瞬黙ってから、静かに言った。
「遺書に書いてあった通りに、生きたらいいと思いますよ」
ぽたり、手の甲に涙の雫が落ちた。
彼は。
遺書は書かないと約束したのに、ひっそりと。
上着のポケットに自分だけ
私に宛てた遺書を忍ばせていたのだ。
『狡い』
心の中で呟いて、何粒か、また手の甲に涙をこぼした。
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