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卒業式の後の教室は、なんだかぽっかりとあいた、俺の心の空間のようで……。
もう聞こえない筈のクラスメイト達の声が、聞こえるような気がした。
自分のだった机に1人突っ伏していると、ガラリッと幻聴ではない音がする。
顔を上げると、扉に手をかけたままの檜山が、驚いた顔で俺を見ていた。
「何してるんだ? 皆もう帰ったぞ」
扉を閉めて入ってきた檜山は、黒板いっぱいにチョークで書かれた大きな『祝! 卒業!!』の文字と、その周りの色とりどりのクラスメイト達の書き込みを眺める。
しばらく微笑み見つめていた檜山が「菅田」と俺を呼んだ。
「何?」
「君の、書き込みがないんだけど?」
思わず絶句する。
皆、思い思いに書いただけで、全員が名前を書いている訳じゃない。
それなのに、俺のがないと、判るなんて――。
「………………」
俺は再び、机に突っ伏す。
「……なぁ先生」
「ん?」
「結婚して良かった?」
「………………」
顔は見えないが、返事に詰まったらしい檜山は無言だ。
どんな表情してんだろ、と思いながら、歩き出した檜山の足音を聞いた。
「あいにく私は、生徒相手にノロける趣味はないんだ」
シャー、シャー、と。
檜山が教室のカーテンを閉めていく音がする。
「聞けるのは、ノロケ、なのかよ?」
俺の言葉に、全てのカーテンを閉め終えた檜山が笑った。
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