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「この学校で1番に落ちるとしたら、君だぞ」
高校受験を前にして言った担任・檜山の声は、可哀想なくらい俺の耳を素通りし右から左へと抜けた。
「でしょうね」
両親が聞いたら発狂しそうな台詞だったが、あいにく俺には、どうって事ない言葉と内容だった。
「落ちたら就職でもするよ」
そしたら家も出られて、親のスネも齧らずに済んで、バンバンザイだ。
「私の教え方が悪いのかな? 中でも英語が最悪だ」
俺の内申を見ていた視線が、上目遣いに俺へと向けられる。
「お母様は元英語の教師だろう?」
なのに何故できないんだ? と訊かない処は、今までの担任よりよっぽど人間ができている。
俺の母親は担任が変わる度、まるで自分を誇示するように英語教師であった事を担任に言った。
もちろん、檜山にもだ。
「それはすごいですね」
「でしたら色々とご存知ですね」
元同業者ほど厄介なモノはない――とばかりに。
驚いた顔をしてからおべっかを使っていた今までの担任達とは違い、檜山は「あ、そうなんですか」と答えただけで、すぐに俺の事へと話題を戻した。
ギリ。
母親が俺の隣で、奥歯を噛み締めたのが判った。
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