キミはオレの希望

3/11
前へ
/11ページ
次へ
 俺は母親が居るのとは反対側の口角を、僅かばかり上げる。  ――イイザマ。  俺の心の声が聞こえたかのように、檜山が俺を見た。  目が合ったのは、一瞬。  だけどその一瞬で、彼とは何かが繋がった気がした。  すぐに俺から母親へと視線を戻した檜山は、何事もなかったように面談を続けた。 「ねぇ、先生。どうしてあの時、スカしたの?」 「あの時?」  突然の質問に、檜山は静かに俺を見返す。  無言だったのは、数秒。  小さく息を吐くと、やれやれと言うように机に左肘を付いてこめかみを支えた。 「質問してるのは、私の方が先なんだけどね。……お母さんのじゃなく、『君』の三者面談だったからだよ」  視線を机の上の内申書に落としたままの檜山に「さすが」と思う。  あれはもう、何ヶ月も前の話。  俺の今の言葉だけで、すぐに思い当たるなんて。  ――あなたは知らないんだろうな。  あの時から彼は、俺の『特別』になった。 「あ、そ。先生への答えは、『教え方』の問題じゃない、だよ。人間には、得手、不得手ってあるだろ? 合う、合わない、とかさ。俺は英語が苦手なんだ。――どうしても合わない」 「合わないんです」 「え?」  檜山は肘を付いていない方の手で日誌を持って、ポン、と軽く俺の頭を叩いた。 「先生には敬語」 「えっ…、今更かよ」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加