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「公立に落ちるのも『でしょうね』なら、私立だろ。私立は面接あるぞ。今から敬語を練習しておかないと、本番でボロボロだ」
「私立も受けない。就職するってば」
本気であるのはさすがに予想外だったのか、檜山は左手からこめかみを剥がし、俺を見つめる。
左手の薬指では、指輪が光っていた。
「なぁ、先生。どーして結婚したの?」
「何?」
「結婚なんて――…」
――ロクなもんじゃない。
世間で一流と呼ばれる企業に勤める父親は、世間体ばかりを気にして。
元教師だった母親は、いつまで教師だった過去に縋っているのか。自分の息子が英語ができない事を受け入れられずにいた。
「ねぇ、なんで?」
重ねて問えば、しばらく考えた檜山が「そういう時期だったんだよ」と肩を竦める。
「私もいい歳だったし」
「まだ29じゃん」
「まだ15の君に言われたくないよ」
俺の担任である時にわざわざしなくてもいいのに、と思う。
それも、同じ中学の教師と。
俺にとっては、最悪の組み合わせだった。
さて、と檜山が腕時計を見る。
そろそろ次の生徒の時間なのだろう。
俺にとって彼は特別でも。彼にとって俺は、自分が受け持つクラスの『ただの生徒の1人』だった。
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