キミはオレの希望

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 檜山は俺が何か話題を振る以外で雑談はしない。  俺も短いながらもこの『時間』を大切にしたくて、無駄話を振るような事はしなくなった。  2人だけの空間。  視線は合わすけれど。  プリントの同じ箇所を互いに指差し合いながら、言葉を交わすけれど。  嬉しそうに微笑む顔は、俺だけに向けられるけれど。  なのに俺達の指は、手は、肌は――。  1度も触れ合う事はなかった。  彼が触れた場所を、俺の掌がなぞる。  けれど俺の掌は、彼の体温がどんな暖かさなのか、知らないままだった。  不機嫌に車を降りていけるあなたの奥さんは、その暖かさを知っているんだろうな。  怒りをぶつけても、どんなに憎たらしく振舞っても。  彼の隣に、彼の帰る場所に、自分の居場所があるのを知っている……。  ――そんな羨ましさではない自分の心にある苛立ちに、俺はいつも可笑しくて、嗤ってしまうのだ。
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