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「―――――駅をご利用くださいましてありがとうございます。各方面の最終列車は発車いたしましたのでお近くの改札口、出口にお進みください―――――――」
駅構内に機械音声のアナウンスが鳴り響く。
人っ子一人いない改札口で、俺はそのアナウンスを聞いていた。
終電に間に合うようにと必死で走ってきた意味がなくなり、
俺は立ち止まって肩で息をする。
まだ十月だというのに夜は冷え、吐く息は白かった。
すぐに通り抜けれるようにと鞄から出しておいたICカードを握りしめ、
やるせない思いで息を整える。
本当に、最悪な一日だ。
「無理っていったろ?走り損だな。」
俺一人だけだった駅の改札口に、黒髪の細見の男が現れる。
俺が終電を逃す原因になったそいつは、携帯をいじりながら悠々と俺の後ろを歩いてきた。
「お前が俺に酒を飲ますからだろ!!お前がどんどん飯やら酒やら注文するから飲むしかねえじゃん!?」
思わず大声で相手に詰め寄るが、夏樹は顔も上げず携帯をいじり続けていた。
「はいはい、ごめんごめん。でも深夜に大声はやめてねー。ご近所迷惑だよー。」
「心がこもってねえ……」
「そりゃねえ。俺が頼んだとしても飲まなければいいってだけじゃん。こうなったのは行成、お前の責任。」
その男―――夏樹の真っ当な指摘に、俺の反論はでてこない。
しかめっ面をして黙っている俺を見て、夏樹は顔を上げ満足したかのような笑みを浮かべる。
「ま、彼女にフラれたんだからやけ酒くらってもバチはあたらんよ。」
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