始発まであと何分

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――――――そしてこの状況に至る。 「タクシー呼ぶにも…‥‥」 「金ないよな苦学生。またもやし生活するか?」 「始発何時だっけ…‥‥」 「朝の五時。いま一時だからあと四時間。」 夏樹が携帯の画面から見ながら答える。 今から四時間一体どこで時間をつぶせばいいのか。 駅周辺には居酒屋が数件ポツポツあるだけの殺風景な場所だった。 まだ残暑が残る十月初め、俺は長袖のシャツ一枚にジーパンというラフな格好だ。 冷え切った夜気が肌を刺し、俺は両手で身体を擦る。 震える身体で吐いた息は白く、空まで昇っていった。 「なんでこんな辺鄙な場所で酒飲もうぜっていったんだよお前……」 「ちょうどあの店のクーポンが手に入って。安く飲めたろ?」 そういって夏樹が携帯をズボンのポケットになおし、歩き出す。 休む場所のあてがあるのかその歩みには迷いがない。 「どこいくんだよ?」 「こっちこっち。」 そういいながら夏樹は改札口を通り、駅構内に入ろうとする。 「おい夏樹、もう終電で駅閉まってるだろ!?」 俺は慌てて夏樹を止めようと声をかけるが、夏樹は素知らぬふりで 改札口を通り抜ける。 「大丈夫大丈夫、ここの駅員ろくに見回りしないから。見つかったとして謝ればOKだし。」 「いいのかよ……」 すると改札の向こう側で、夏樹がこちらを振り返った。 その顔は俺を小馬鹿にしていた。 「お前って案外ビビりだよな。だから彼女に一緒にいてドキドキしないっていわれんだよ。」 わかりやすい夏樹の挑発に、俺の理性は吹っ飛んでしまう。 今一番触れられたくない場所にわざと触れる夏樹に苛立ち、言葉を放つ。 「ビビりじゃねえよ、ただちょっとあれだ、確認したかっただけだ。」 「はいはい、わかりました。」 「馬鹿にすんな。」 俺は苛立ち任せに改札機の読み取り口に定期券を叩きつける。 ピピピと音がなり改札機の扉が開いた。 早足で改札口を通り抜けると、扉が俺の後方で音を立てて閉まった。 夏樹は追いついた俺を見て、ポツリとつぶやく。 「閉じ込められたな。」 「別に出ようと思えばでれるだろ。」 「まあ、な。」
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