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日中は賑わっていただろう駅構内は昼の喧騒が嘘のようにしいんと静まり返っていた。
普段騒がしい場所がここまで静かだと、どこか不気味に思えてくる。
駅構内の蛍光灯の一つがチカチカと点滅を繰り返し、そこに虫達が纏わりついていた。
しかしその動きはか弱く、いまもまた一匹の虫がふらふらと地面に落ちていく。
……なんか今にもナニカがでてきそうな雰囲気だ。
カツンカツンと、俺と夏樹の靴音だけが駅構内に木霊する。
前を歩いていた夏樹が、小さな声で「なんか出そうだな。」とささやいた。
「いきなり何言ってんだよ夏樹!?」
「冗談だよ冗談。怖いなら手つなぐか?」
俺の前を歩いていた夏樹はそういうと、俺に手を差し出してくる。
その顔はにやにやと笑っており、ふざけているのが丸見えだ。
なんだがその顔が癪に障ったので俺は思いっきり夏樹の手を握ってやる。
夏樹の手はもちろんゴツゴツした男の手であり、何度か繋いだ彼女の柔らかい手とは違っていた。
俺より少し大きい夏樹の手は細く骨ばっており、俺のバイト先の洗い物のせいでガサガサな手とも大違いだ。
彼女もこういう大きな手と手を繋ぎたかったのかなあとぼんやりと思う。
「な、何してんだおまっ」
夏樹は俺の行動に不意をつかれたようで、すぐに手を振りほどこうとする。
いつもすまし顔をしているこいつの表情を崩せたことがなんだか楽しくなっていた。
俺は戸惑う夏樹を無視しさらに夏樹の指と自分の指を絡ませる。
掌が密着し、夏樹の手の冷たさが俺に伝わってくる。
俺の手は酒のせいか温かいので、夏樹の冷たい手が心地いい。
俺は自分の指を折り曲げ、夏樹の手を握るとそのまま顔の高さまで持ち上げる。
「夏樹の手、冷たくて気持ちいいな。」
男の手を握って何言ってんだという感じはするが、頭がふらふらするし暑いし、もう全て酒のせいということにしてほしい。
夏樹は俺になされるがまま、手を振りほどこうともしなかったが、
俺のその言葉に反応するかのように、自分の指を俺の手に折り曲げ、強く握ってくる。
夏樹の力が強いのか、指の骨ばったところが俺の手にあたり、かなり痛い。
「ちょ、夏樹痛い、痛いって!!ごめんふざけすぎたって!!」
俺への嫌がらせで手を強く握ってくる夏樹に謝罪するが、その手の力は収まらず、
そのまま俺の手を引いて歩きだしていく。
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