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その後ろ姿は苛ついているような、怒っているかのように見えた。
俺は何も言わずただ黙ってついていくしかなかった。
「ここなら寒さもしのげるだろ。」
夏樹が到着した場所は待合室のようだった。
夏樹が扉を開けるとそこは蛍光灯がついており、ベンチが設置されていた。
暖房は効いていないようだが、風を防げるだけありがたい。
が、いまはそんなことを悠長に考えているときではなかった。
夏樹は手を繋いだまま俺にベンチに座るように目配せをし、俺もそれに黙って従う。
無言のまま男二人、待合室のベンチで二人並んで座る。
蛍光灯と、備え付けの自販機からの稼働音だけが待合室に響く。
気まずいその沈黙を破ったのは、夏樹だった。
「なあ、行成。」
「なんだよ。」
「俺さ、お前のこと好きなんだわ。」
「……は?」
「一応言っとくと恋愛的な意味で。お前と恋人になりてえってこと。」
ムードもへったくれもない唐突な告白に、俺は困惑する。
俺が彼女に告白したときはデートで夜景をバックに・・・
と現実逃避をしていたところ、夏樹がゆっくりと繋がっていた手を離した。
夏樹の冷たい手が離れ、なぜだか寂しい気持ちになった。
彼女と別れ人肌が恋しいのかな、俺は。とその気持ちに理由をつける。
「はあ!?んなもんいきなり言われても……俺なんでお前が俺のこと好きなのかもわかんねえし……」
いきなり友達から告白されるという展開に俺は慣れておらず、しかもその相手が男というのは俺のキャパシティオーバーだ。
いますぐここから立ち去りたい衝動に駆られるが、終電後の待合室という状況は一切逃げ場所がない。
「はじめからこれ狙ってたってことないよな……」
あの居酒屋を指定したのも、終電間際までなにも言わなかったことも全て狙ってのことなのかと疑いの目を向けるが、夏樹は欠伸を噛み殺しながら俺に告げる。
「んなわけねえだろ。お前が恋人と別れたって聞いてラッキーとは思ったけど、告白する気なんて全然なかったし。傷心のお前慰めたら恋人になれんじゃないかなっていう打算でお前の愚痴に付き合ってたけど、やっぱ好きな奴のああいう話聞くのしんどいな。」
居酒屋でのこいつは確かに不機嫌のようだったが、それがそんな理由だったとは露にも思わなかった。
ていうか俺はこいつに対して、デリカシーないことをしていたのだなということにいまさら気付く。
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