第1話「無太郎と竹丸」

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竹丸は竹刀を振るのをやめ、まん丸な目で無太郎を見る。 純真無垢な目で見つめられ、言葉に詰まったのは無太郎である。 「むぅ、どうしてと言われてものぅ……某の剣客としての腕がないとしか……」 「そうじゃなくて」 竹丸は無太郎の言葉を切って続けた。 「そうじゃなくて、どうしてみんな、師匠(せんせい)の強さを知らないの?」 「うむ?」 「おいら知ってるよ。じいちゃんが言ってた。師匠(せんせい)は江戸で有名な、それはそれは立派なお侍様だって。ん~……なんだっけ、そう一度(ひとたび)刀を抜けば『てんかむそう』だって」 竹丸は「『てんかむそう』ってなんだ?」と首をひねる。 無太郎は眉を下げた。 「ぬはは……これは恥ずかしい……」 ぽりぽりと頭を掻く。「まぁ、それほどではないがの……」 事実、無太郎はこの純朴な瞳をどう(かわ)したものか、困り果てていた。 人には誰しも、隠しておきたい過去が少なからずあるものである。無太郎の過去も、そう言った(たぐい)のものであった。 『親も無し、妻無し、子無し、板木無し、金も無けれど、死にたくも無し』 『無太郎』という名は全てを捨てたときに背負った――。
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