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喉に刺さった沈黙の謎
「え、あ、どうぞ。」
その日も食堂は馬鹿みたい混んでいた。だから決して不自然じゃない。
彼女は、一人だった。
いつもいつも本を読んでいる、まあ、どこにでも一人はいる、一人でいる、タイプ。
独りでいるのが好き、というのを必死にアピールしている、タイプ。
「何してるの?」
だからちょっと同じ学科の顔見知りが声をかけてやればすぐに仲良くなれる。そういうタイプだ。僕は知ってる。
「…。」
無視。…じゃない。聞こえなかったんだろう。
「何してるの?」
「え」
ほら。
「あ、いや。世間話。何してるのかなって。」
「ああ、蕎麦を食べてたの。」彼女は当然のことのように静かに答えた。いやいや。
僕は笑いながら答えた。「いやいや、そういうことじゃなくって。」分かりづらい冗談だ。
「そうなの?ごめんなさい。私、人の気持ちを読む、というより、感じる力が欠けてるらしいの。よく言われる。」彼女はゆったりと流れるように答えた。
「いやいや、そんなことないよ。」言いながら、考えていた。そういうことじゃなくてなんなんだ?二の句が継げなかった。あれ、二の句が継げないってこういう意味だっけ。違う気がする…
「じゃあ、私行くわね。」彼女はスッと立ち上がり、空になったプラスチックのお椀とお盆を持って食器返却口へ向かって言った。有象無象の中に消えてゆく彼女から最後に得た情報は、ふわりと漂ったシャンプーの香りと、横顔にかすかに浮かんだ笑みだった。
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