喉に刺さった沈黙の謎

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彼女と再び出会ったのは(授業では会っているので、再び話したのは、ということだが)、一週間後の同じ場所。少しでも食費を抑え、胃の腑を満たそうという卑しい学生達が集う学食だった。 そんな奴らに囲まれて、一杯二百円のきつね蕎麦を食べている彼女の姿は、えらく不釣り合い。いや、常軌を逸した不可思議なことのように感じられた。 「こんにちは。」僕は一杯二百円のカレーを持ちながら、出来得る限り誠実に挨拶した。そうするのが、彼女と話すための最低限のマナーのような気がした。 「…こんにちは。」一拍おいてこちらを見上げて言った。 「何食べてるの?」隣の席に当然のように座って話を続ける。 「きつね蕎麦。」 彼女には会話を広げようという意思がないのだろう。あるいは、僕には興味がないというアピールなのか。 「いいよね、蕎麦。安いし、俺はカレー。」 彼女は少しだけ微笑んだだけで蕎麦を啜った。 確定。彼女には会話を広げる気がない。 「蕎麦好きなの?この前も蕎麦だったよね?確か。」 蕎麦をきちんと啜り終えてから彼女は言った。 「そうね。嫌いじゃない。」 蕎麦の話題、撃沈。 「あのさ、オススメの本とかある?あ、本好きだよね?」読書家にこの質問はテッパンだ。読書家は自分の読んでる本を他人に勧めたくて仕方がない。そういう、タイプなのだ。僕は知ってる。 「ごめんなさい。私、人に本を勧めるのって好きじゃないの。」彼女はキッパリと、そう言った。余りにもキッパリとしていたので、僕は彼女が「私、実は宇宙人なの。」と言ったように感じた。勿論彼女は宇宙人ではない。そういった類のキッパリだったのだ。 「あ、そうなんだ。ごめんね。」 本の話題、粉砕。 隊長、もう駄目です。指示を…指示を! ピークを迎え、学食の賑わいは戦場のように騒がしかった。だが、安物のプラスチックのカレー皿とアルミスプーンが奏でるカチャカチャは、その喧騒をすり抜けて、僕らの沈黙をじっくりと見つめているように感じた。 カチャカチャカチャカチャ…
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