彼女からの手紙

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 お久しぶり。いかがお過ごしですか。そちらはそろそろ寒くなる頃でしょうね。 お体に障りはありませんか、なんて。尋ねることでもないわね。貴方のことだから私が突然いなくなってしまったことで、さぞかし具合を悪くしたことでしょう。  だって、ニーナの時はそうだったもの。  赤くなった貴方の目。心配だったわ。私の手で貴方に薬をつけてあげられたらいいのにって、その目を見る度に思ったの。  前よりも痩せた頬。私の食事はいつも通り用意してくれたけど、貴方も食べなきゃダメじゃない。  埃の被った薄暗い部屋。別に気にならなかったけど、ひとりで貴方の帰りを待つ間、ほんの少しだけ寒かった。だから、貴方が部屋にいるときは、いつも貴方の隣にいることにしたの。  そうすると貴方は、私をぎゅっと抱きしめて、ありがとうと言ってぽたぽたと涙を零した。  私、あのとき彼女がどこに行ったのか、どうして行ってしまったのかを知ってたわ。私がとても小さかった頃に、彼女が教えてくれたから。  私たちは、いつまでも同じところにいるわけにはいかないんですって。いつかは誰もが等しく、その場所に行かなければならないと決まっているの。  「どうしてずっとここにいられないの?」って訊いたら「別に行かなくてもいい。けれど、ずっとここにいることを選んでしまったら、あんたはいつか分かれた尻尾の化け物になってしまう」って、ニーナはいつもの不機嫌な声で答えてくれた。   小さな私はどうしても納得できなくて「私はずっとここにいたい。どうして化け物になってはいけないの?」って何度も何度も尋ねたわ。そうしたら、彼女は寝返りをうってこう言った。「アタシは化け物になったことがないから、どういうことになるのかはわからない。けれど、もしかしたら大切なひとを傷つけることになるかもしれない。あんたはそうなりたい?」って。  ニーナがいなくなってしまった時に、ああ、ニーナは化け物になることを選ばなかったんだなって私は安心したの。それに、きっと私もいつかそこに行くのだろうし、いつかまた会えるって信じていたから。  貴方もわかっていたんでしょう?だって貴方はとても賢いもの。それなのに、貴方はあんなふうにぼろぼろになってしまった。その理由は、私には結局わからなかったな。
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