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ツキヨミ
私は一人、誰もいない屋上にいた。
屋上はとても静かだけれど、体育館や各教室、屋上から見える校庭には部活などで残っている生徒たちがいて、彼らのにぎやかな声が微かに聞こえてくる。
私は、彼らのように部活をやったり誰かとおしゃべりをしたりはしない。
私は、一人のほうが落ち着いて好きだから…。
でも、彼がいたら、話は別だけど…。
私は、遠くから聞こえてくるみんなの楽しそうな声を聞いて、とても切なくなった。
「…あーあ、なんで、こんなに泣きたくなるんだろ」
私は屋上の柵に組んだ両腕を乗せて夕空を見上げながら、泣きそうになるのをこらえて呟いていた。
そう呟きながらも、その理由はわかっていた。
いつも一人でいた私に声をかけてくれていたクラスメートの男の子が、駅のホームで電車に飛び込んで自殺したのが、私の泣きたくなる理由だ。
彼は私に声をかけないときは、いつも私と同じように一人で過ごしていた。
でも、まわりからいじめを受けていたわけでもなく、家庭でも家族みんな仲良しだと、彼は言っていた。
彼は、優しかった。
それが自殺の原因なんじゃないかって、私は考えている。
いつも彼は、自分の気持ちよりもまわりのほうを尊重していたし、まわりに気を遣ってしまっているように見えたから…。
なんで私がそう思ったのか、私も同じだから。
「だから、私に声をかけてくれたんだよね?」
彼は、毎日、リストバンドをしていた。
それを外しているところを見たことがあった。
彼は、リストカットをしていたんだ。
ふと優しい風が吹いてきた。
風が吹いていくのを目で追ってみると、そこに彼が泣きそうな表情を浮かべて立っているような気がした。
『...ごめんね』
彼は、そう言っている気がした。
それから、すぐに彼は消えてしまった。
私は、ゆっくりと目を閉じた。
「...わかったよ。だから、そんな顔しないで。あなたの分まで生きるから...」
私は微笑みながら、夕焼け空を見上げていた。
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