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1 いわくつきの奴隷
その豚みたいに太った臭い匂いのする男は、鎖に繋がれたわたしを見て言った。
「口がきけないのか、この娘は」
男の言葉に、わたしは、あえて、知らんふりをした。
この男に、そんなことをいちいち教えてやるいわれはなかった。
男は、にやりと笑った。
「無口な女が好きな、男もいるんだからな」
それから、男は、奴隷らしい女たちに命じて、わたしを風呂に入れ、体を洗わせて、髪をすかせて、仕立ての悪い麻袋よりは、いくらかましな服を着るように、言った。
両袖のない、極端に丈の短い服を着るのは、嫌だったが、仕方がなかった。
わたしは、黙ってその服を着た。
男は、しばらく、値踏みするように、私の周りを回りながら、わたしを見ていた。
自慢ではないが、白い肌に、長い黒髪のわたしを、殺された養い親たちは、よく、美しい娘だと言ってくれていた。
どうやら、男も、同じ意見だったのだろう。
満足そうにうなづくと、男は、わたしの顎に手をかけて、上を向かせて、顔をまじまじと見つめて言った。
「お前、混じっているのか」
わたしが、不愉快そうに眉を寄せるのを見て、男は、気味悪く笑った。
「そいつは、いい。お前、高く売れそうだな」
わたしは、頭を振って、男の手を振りほどくと、奴を睨みつけた。
わたしは、誰にも、聞こえないように、心の中でつぶやいた。
わたしを買う者は、誰であろうと、きっと、わたしを買ったことを心の底から後悔するだろう。
野党たちがキャラバンを襲ったのは、二日ほど前の夜のことだった。
皆が、寝静まるのを待って、奇襲をかけたのだ。
わたしの養い親たちは、寝込みを襲われ絶命した。
わたしとは、決して、わかりあうことはない人たちではあったが、優しい、善いひとたちだった。
そして、野党たちは、荷物の陰に隠れていたわたしを見つけると、言った。
「このガキは、売れそうだ。都に連れていく」
その時、わたしは、男の姿をしていた。
わけあって、養い親たちは、わたしを男として育てていたのだ。
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