1 いわくつきの奴隷

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 わたしの名前は、レキ。  本当の名は、別にあるが、わたしを育ててくれていた養い親たちは、そう呼んでいた。  だから、今では、それが、わたしの名前だといえる。  呼ぶ者のいない名前など、意味がないからだ。  わたしは、今では、存在しない国の王族だった。  その国の名は、ゲロニカといった。  今では、何も残されていない、忘れられた国だ。  わたしの国には、言葉も文字もなかった。  皆、一つの大きなブレンと呼ばれるものに属する一つの魂だったから、そのようなものは、必要なかったのだ。  正確には、言葉がなかったわけでは、ない。  たまに、ひそひそ話ぐらいは、するうことがあった。  だが、それは、大きな魂、つまり、他の人々に知られたくない話をするときだけだった。  たいていは、心と心で会話していた。  今では、心で結ばれる相手は、ソードフィッシュ以外は、いない。  ゲロニカの者は、ほとんどが殺されてしまったからだ。  あの日、突然、ゲロニカは、襲撃され、国の民も、王族も、ほぼ全てが殺され、何もかもが失われた。  わたしが助かったのは、偶然だった。     
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