1 いわくつきの奴隷

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 たまたま、乳母のもとを訪ねてきていた彼女の知り合いが、連れてきていた乳母の子供とわたしをすり替えて助け出してくれたのだ。  もちろん、すり替えられた乳母の子は、死んだ。  理不尽で、無情な話だった。  国を一人で去ることを拒否したわたしに父王は、言った。  「お前には、この国の歴史を継ぐ責任があるのだ」  それは、今でも、わたしを縛る呪いだ。    「生きろ」  国を去るとき、一度だけ、わたしは、国境で後ろを振り向いた。  禍々しく燃える、炎に包まれた王城をわたしは、見た。  そして、死にゆく人々の魂を感じていた。  消えていく、魂の気配。  一つ一つ、わたしは、この世界から切り離されていった。  それは、たった一人で暗闇の中を歩いているのと似ている。  灯りは、一つづつ消えていき、やがて、辺りは、漆黒の闇に包まれた。  以来、6年間、わたしは、森の民のもとで暮らしている。  乳母の知り合いは、森の民と呼ばれる人々の一員だった。  この世界の大半は、森で覆われている。  森は、この世界の、謎だ。  森には、人間たちは、寄り付かない。  森には、魔族とか、魔物の類が住んでいるからだった。  人間は、その身を守るすべをほとんど持たない。  わたしも、他のゲロニカの民も、みな、人間だった。  だが、わたしたちには、ブレンと古よりの知恵があった。     
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