待つ

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待つ

 私の夫は、待つのが嫌いです。  ”まだなのか?”  これが口癖です。  人気料理店の行列にも、バスを待つ時間も、カップラーメンを待つ3分間さえ、我慢できないのです。酷い時は、待ち切れずに何処かへ行ってしまったり、帰ってしまったりもしました。  それが原因で喧嘩になった事さえ、数え切れないほどにあります。原因が原因なだけに、次の瞬間には仲直りしてるのですけれど。  そんな夫でも、唯一待ってくれるものがあります。それは、私。  年老いて歩みが遅くなった私を、夫は何も言わずに待ってくれます。それでもせっかちで、常に私の一歩先を歩くのですけれど。  本当は早く歩きたくて仕方がない筈なのに、一歩歩むごとに振り返り、私を見ます。  思えば夫は、私に関する事には文句を言いながらも付き合ってくれていました。  まだ若かりし頃、デパートへショッピングに行った時も、なかなか会計へ向かわない私の後ろから何度も何度も、”まだか、まだか”と退屈そうにしながらも付いてきてくれました。  女性は何かと身支度が必要ですから、外出するにも時間がかかります。冬は、車の中が温まる頃にやってくる私に”遅いぞ”と言いながらもそれ以上の文句は言いませんでした。  あれもこれも、夫なりの我慢と、愛情ある行動なのです。  そしてそんな夫が、とても愛おしいのです。  そんな夫を置いて、先に旅立ってしまいました。夫は一人ではご飯の支度も、洗濯も、掃除も出来ませんから、とても心配しています。  とても退屈で、寂しいです。夫のいないこの場所は。  夫に”まだか”と急かされる日々が、恋しくて仕方ありません。  けれど、良かったと思っています。  ”まだか”  夫はきっと、この場所でもそういって、私を待つでしょう。  けれどそんな悲しいこと、夫にさせたくありませんでしたから。  私を恋しく思った時、いつでもお迎えができるように。  ここにいますよ、ずっと。  今度は私が、貴方を待つ番です。
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