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《ざぁぁ…》
いきなり強い風が吹き抜けた。
小さな宝石たちがどこか遠くへ飛んでいく。
「わっ!!」
私は咄嗟にスカートを押さえた。
朝、20分かけて丁寧にセットした髪型も台無しになり溜息が出る。長く黒い髪をかきあげると視界の先に1人の男が立っていた。
男は端正な顔していてどことなく雰囲気があり、白い肌に金色とも茶色とも言えない色の柔らかく猫毛のような髪の毛がふわりふわりと風に遊ばれていた。年は20代後半くらいで身長は180cmはあると思われる。男の目線の先には青い空を背景に生き生きと咲き誇る金木犀があった。
(あの人...)
なぜだかその男の存在が私の心の奥底をくすぐった。
とくにあの髪の毛。
私は彼の髪の毛が気になりはじめた。
なんだか懐かしい気持ちになったからだ。
(あれはなんていうんだっけ...?
金とも黒とも茶でもない...。)
私の中にある記憶の引き出しを必死に開け閉めして探すがその単語は一向に出てこない。喉のところまで出ているような、出ていないような気がするがあと一歩でやっぱり出てこない。
(うぅ...何だっけなー?
あれ...あの〜あの色。)
そんなことを道端で止まりながら考えている自分はどうだと思ったが、思考と好奇心がもう止まらない。
そしてもう一度男の方を見た。
その瞬間、男の瞳から一粒の涙が流れた。
涙は頬を伝い、顎先で一粒の雫となって下へ落ちていった。
それまで世界は木々がザワザワと騒ぎ、鳥は囀り、人の話し声や日常の音で賑わっていた。だがそれは一瞬にして音を失った。それほど時間の流れが止まったかのようにそれは静かだった。嘘みたいに静かだった。
私はついそれに見惚れてしまった。
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